悪の教典/貴志祐介(ネタバレ)

映画は見てないので、原作本との比較は全くできないことを勘弁していただいて、感想を書きます。

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)


主人公は英語教師の蓮見教諭。
巧みな弁術と、生徒がわからない部分を巧みにフォローしていく、英語教師の鑑のような存在。生徒へのマインドコントロールには、豊富な心理学の知識が利用されている。


上巻では、いかに蓮見先生の魅力に生徒が取りつかれていくかが焦点。自分のファンを増やすことでは蓮見自身に対する善人モード、プラス人格者モードを生徒個人個人に植えつけていく作業。これが地道ながらも殺戮をコンプリートするための重要なファクター。心理学の知識も活かしながら、蓮見先生は親衛隊とも言えるシンパを周りに築きあげる。というのも、殺されていく生徒の立場が一様にして「まさが蓮見先生が?でもあの先生がそんなことするわけないよ」と好評価で、それゆえに生徒に油断が生じ、その結果として一番の狂人である蓮見教諭を疑いにかかるまでに時間がかかり、シンパによる「絶対蓮水先生がそんな凶悪なことしないって!」という刷り込みが完成され、蓮見新犯人説が薄らいでいく。


下巻では、上巻で今までに丹念にキャラ付けし描写した高校生たちを、蓮見先生はなんの未練もなく、単純作業を繰り返し殺戮していく。
今回の貴志祐介さんの小説作りで感心したことは、大事にキャラ付けした生徒たちをいとも簡単にあの世へ送り込んでいったこと。下手な小説家だと、ちょっとしたキャラクターでももったいをつけて、被害者が死ぬ間際にいろいろ蛇足をつけてセンチメンタルにして長引かせてしまいたいところ。これをバッサリとカットすることで、物語全体のスピード感が増し、大量殺戮者の無慈悲な面がとても良く書かれていたと思う。


ラストがグジュグジュとしていてすっきり感に欠けるけど、細かい事象や事件や登場人物を本筋からそれることなく書ききった貴志祐介さんの筆力に脱帽でした。


これからも氏の作品を読んでみたいなあととても気になっています。


評価は最上級の星5つ☆☆☆☆☆を付けさせていただきます。